*Adobe Illustratorを使って描いたイラストレーションの作成過程です。
罫線のある画像は拡大できます。
さて「別れのブルース」ですが、どうでしょうか、ご存知でしょうか?
「窓を開ければ、港が見える…」で始まるあの歌です。
淡谷のり子さんの歌声でおなじみですね、聴いた事あるでしょ。
昭和12年発表以来60年近くに渡り唄い続けられた、淡谷先生の代表曲であります。
作詞は藤浦洸、出ました藤浦洸。
藤浦氏はこの曲をもって流行作詞家の道を歩みだし、戦後には少女時代の美空ひばりの曲を多く手がける事になります。
作曲は生誕百年服部良一、またお世話になります服部先生という事です。
歌詞はこちらから。
第1ラフでございます。
イメージとしましては、キャバレー的な、ダンスホール的な、なんかそんな場所の、窓際のテーブルで、今まさに、男と別れたばかりの女性が、悲しみに暮れる、てな感じですね。
今回こそは原点に立ち返りまして、真横水平パース無し、そして窓際という、絵本昭和の流行歌の伝統的構図をもちまして、ややシリアスタッチで、年内完成をめざして、とはいえのんびりと、描いてゆこうかと思っております。
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ではまず人物から、
パーマネント、ワンピース、ハイヒール、という感じ。
描きにくいので横を向いてもらって、顔。
髪の毛がややこしくなりそうなので、頭の部分だけとりあえず色を付けました。
昭和12年といえば我が国におけるパーマネントの第一黄金期であります。
この絵よりももう少し細かい巻きが流行だったように思いますが。
時は盧溝橋から南京入城の年。
「パーマネントはやめましょう」という標語ができるのは、この二年後です。
一般的なワンピース、柄が入りますよ。
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蘇州夜曲のチャイナドレスの時と同じ方法で、
簡単なバラの花柄を作ります。
それを並べまして、洋服の形に合わせて変形したりしながら貼っていきます。
そんなに正確でなくても雰囲気で大丈夫。
色は暫定です。
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調度品あれこれの下書きです。
まずはテーブル、一脚の丸テーブルです。
テーブルクロスを掛けますが、女性の側を少したわませることにします。
悲しみに暮れる彼女が突っ伏した時に思わずクロスをずらせてしまったのですね。
さらにこれによってせっかく描いた女性の姿を隠してしまわないですみます。
どうですかこの感情表現と構図効果の一石二鳥のすんばらしい演出。
ああなんという自画自賛。
すこしグラデーションを入れました、少しです。
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椅子ですね。
ちょいとした布張りの小椅子。
背もたれは正面で作ったものを、にゅう~っと変形させれば簡単です。
人物と組み合わせて大きさを調整。
向かいの一脚は、さきほどまで相手の男性が座っていたのですね。
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花瓶と植物、それを置く台。
壁についている灯り。
色はすべて暫定的です。
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さて窓です。
窓はいわばこの歌の主人公と言ってもよい存在ですので、ちゃんと描きましょうね。
窓枠や柱は白っぽい感じにしたいと思っているので、見やすいようにグレーのバックを入れときます。
窓を開ければ、ということで少し開けておきます。
カーテンの飾り、柱、腰板など。
とりあえず出来た物をあわせてみました。
もう少し安っぽいというか場末感というか、そういうイメージだったんですが、ちょっと豪華な感じになってますね。
どうしましょうかね。
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背景が白っぽくなったので、ワンピースを赤にしました。
あとテーブルの上に小物を。
ランプとグラス、彼女のグラスは倒しました、わかりますかね。
そして男の残した煙草など。
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壁の模様を作ります。
唐草模様の織物を元に、ざっくりとトレースして、
こういうパーツを作って、並べます。
上の臙脂っぽい赤い色が良かったのですが、服を赤にしてしまったので、とりあえずこんな色を入れておきます。
右往左往でございます。
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さて、この「別れのブルース」ですが、昭和12年のオリジナル盤は、われわれが近年テレビなどで聴き馴染んだものよりも、随分テンポが速いです、倍ぐらい速いです。
軽快感さえあります。
リンクはいたしませんが、YouTubeにいくつか置かれているようです、オリジナルも上げられているみたいなので、聴きくらべてみる、なんてのはいかがでしょう。
なぜこんな事をいうておるのかともうしますと、
カーテンです。
今日はこれだけしかないもので。
風になびかせます、夜風汐風 恋風乗せて、です。
できるだけ窓の外を見せたいので透かせました。
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下の空いたスペースに段差とフロアを作ります。
彼女のいるテーブルから二段ほど下がってダンスの出来るフロアがあるわけです。
この曲の歌詞は2番までしかありませんが、それぞれの最後のフレーズが「踊るブルースのせつなさよ」で共通しています。
これは藤浦洸が手を抜いたわけではなく、この歌において重要なる一節なのであろう、ということで、踊る、ブルース、の切なさ、的な物を込めたいな、と思っているわけで、それがこのダンスフロアという事です。
よろしいか。
彼女と壁の間にカーテンが入った事で、壁を赤系に出来ました。
どうでしょうか。
もう、紆余曲折でございます。
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さて、窓の向こうに港が見えますよ。
だいたいこんな真横から見た構図で、窓から港など見えるものでしょうか。
などという事を考えてはいけません。
見えます見えます、見えますとも。
船が泊まっていればそこは港、ということでこういうものを作りました。
とりあえず船、街灯、あとなんか建物風。
これを組み合わせまして、さらにモヤの様なものを加えます。
どうでしょうか、メリケン波止場の灯が見える。
窓枠と彼女の頭にあわせて配置を調整。
人物を入れました。
男性の後ろ影。
この人が今別れた男なのでしょうか。
あのやくざに強いマドロスなのでしょうか。
ちなみにここで言うやくざに強いとは、ヤクザの人達に強いというよりも、いわゆるやくざ事、荒事などに強い腕っ節を持っている、という様な意味であるとも言われています。
彼の残した煙草の煙も入れました。
フロアにバラの花を落としました、特に意味はないです、なんか下の方が寂しかったので。
いりますかね。
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さてさて、ようやく素材が揃いましたね。
あとはちょいとした処理や修正をほどこしますよ。
柱や窓枠、やっぱり色をちょっと暗めにしました。
花瓶の台も。
部屋全体を暗くしますよ。
本来はPhotoshopに持っていって処理をすれば簡単ですが、今回はIllustratorだけで最後まで出来ないかやってみましょう。
不透明マスクで暗い色を中心からぼんやりと丸く抜きます。
これで全体を覆いますと、
中央が明るく、まわりが暗くなります。
テーブルランプと壁灯をマスクの前に出して、明るさをだします。
どうでしょうか、なんかまわりがぼんやりとくすんでしまいました。
次回はもう一案、二枚重ね透かし法をためしてみましょう。
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画像全体をコピーして、全体を暗くし、一部を透明で抜いて重ねてしまうという方法。
この丸グラデーションを透明マスクにして、
白い部分が抜けますので、
重ねますと、こういう感じになります。
先の方法より暗い部分がクリアです。
ただ当然データ量は二枚分になってしまってムダに重いし、印刷する時が不安です。
これはPhotoshopに持っていって、丸グラデーションでアルファチャンネル選択して露光調整したもの。
ちょっと暗くしすぎましたが結局これがいい感じでした。
素直にフォトショ使とけということでしたか。
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さて、Illustratorだけで最後まで、という意気込みは簡単に挫折したわけですが。
とにかくうまく出来れば良いわけですから、そんな事気にしないきにしない。
それでは、いつものように微修正をして終わりにしますよ。
今回はモロモロの微修正とは何か、という事を修正した理由とともに全部示しておきましょう。
すぐ上の画像からの変更点です。
テーブルクロスの明るさとひだの具合(クロスだけ浮いてる様な気がした)
窓枠の色(女性の腕と重なってわかりにくい)
向かいの椅子の位置(後ろの花瓶台の端とイスの端が重なって前後関係がわかりにくい)
港の男の色合い(頭の所が背景のいろとなじんでわかりにくくなってしまった)
船と港の建物の窓明かりをぼかした(こちらはぼんやりとなじませるため)
フロアをずらす(当初市松模様を縦三段見せる予定が作業途中にずれてしまっていた)
バラの花びらの位置と色(なんか並んでたのでばらした)
女性の髪の毛の具合(なんかしっくりいかないので)
女性の靴(靴とベルトの関係が曖昧なので)
全体的な明るさ(ちょっと暗すぎた)
というようなところです。
気になる所を捜せばきりがないのですが。
ええいもう、これでいいやっ!と叫んだ時が完成地点ということです。
ということで、もうこれでいいやっ。
ありがとうございました。
(2008年12月)
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追記 2010年5月
その後最終的な暗がりの部分、Photoshopの露光調整でやっていた所を、Illustratorの不透明マスク乗算がけ、という方法をとってやってみました。
それがこれなんですけど、
何だかこれでいいような気がします。
Photoshopの方が正解というわけでもないですからね。
ともかくIllustrator一本で完成させるという当初の目的が果たせました。
この方法の詳しい事は、ブログの方に「Illustratorで照明効果」という記事を載せようと思います。
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