*Adobe Illustratorを使って描いたイラストレーションの作成過程です。
罫線のある画像は拡大できます。
さて「うちの女房にゃ髭がある」です。
作詞 星野貞志、作曲 古賀政男、これは昭和11年に公開された同名映画の主題歌ですね。
歌詞はこちらから。
作詞の星野貞志という人はサトウハチローです、ああまたしてもサトウハチローですか。
これで6点目になります、15点中の6、あ、多くもないか。
古賀政男は「青い背広で」以来です。
歌っているのは杉狂児と美ち奴、といっても美ち奴さんは「なんですあなた」と四回言ってるだけです。
しかしもうひとつの主題歌「あゝそれなのに」をしっかりと一人で歌っていて、2曲あわせたレコードを大ヒットさせています。
杉狂児というすごい名前の人は、この映画の主演もつとめていて、これ以外の歌もいくつか歌っている戦前戦後を通しての人気の喜劇人で、今年話題になった、くいだおれ太郎のモデルになった人だとも言われています。
さて今回のイラストですが、ここは原点に立ち返り、キャラクターを中心にした楽しい絵にしたいと思っております。
ペッタリとしたチープ感と適度に施された細部の処理とのバランスをとる、というのがテーマです。
ラフ、玄関先にて、ご主人と奥さん、あと小さい娘さんも登場させたいと思っています。
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ではご主人から。
人は良いが気も弱いサラリーマン、というイメージ。
ちょび髭はどうしてもほしかったので。
いつものようにまずはベジェです、引ける所は全部引いてしまいます。
ややこしくならないように、重なっている所とかはレイヤーを別けて作業しましょう。
昭和の始めから十年代頃の写真を見ると、男性の背広の上着とかがなんかちっちゃめで、肩の辺りとかも余裕が無くて、丈も短くてどうも窮屈そうな気がします。
そういう流行だったのでしょうか。
足が両方とも真横からではつまらないので、ちょっと角度を変えて、あたふた感をだしてみました。
何ほどの効果があるかは解りませんが、思いついたらやってみるが吉。
目の縁を少し赤くして焦り感を、いかほどの効果があるのか解りませんが、思いついたらやってみるが吉。
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奥さんと娘さんです。
すがた優しく美しくと歌詞にもあるとおり、奥さんはべつに鬼のような怖い見た目をしているわけではありません。
やさしく美しくありながら、どこか貫禄もあり、怒れば怖い感もあらわしたい。
結果このようなふっくらさんになりました。
「なんです?あなた」といってるところです。
着物は当時の普段着、銘仙風の縞柄。
色は変わるかもしれません。
割烹着は白地で薄く花柄を入れました。
足元は色足袋に下駄。
はたきを持っていますが、これでシバくわけではありません。
掃除の途中だったのですね。
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お嬢ちゃんです。
描きにくいので顔がまっすぐになる角度にして作業。
尋常小学二年生というような感じ。
頭はやはりおかっぱでお願いします。
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玄関です、玄関先。
正確なスケールとか気にしないで、雰囲気で。
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まずは屋根から。
瓦を一枚作りまして。
縦にステップ数3でブレンド。
それを今度は横にステップ10でブレンド。
ブレンドを拡張して、このように端をちょっとづつ重ねます。
その重なった境目に影を入れました。
最初の瓦に影を付けておいて、ブレンドの状態でサイズ調整をして重ねてもいいのですが、きっちり揃いすぎるのもあれなんで、手作業にしました。
全体を変形させて台形にして。
いちばん前に丸いやつ、何というのかわかりませんが、丸い瓦、というか丸いのが付いた瓦。
とにかくそれを付けました。
これは屋根の正面というか側面というか、どっちかわかりませんが、その三角の部分、あとサザエさんの頭みたいなやつと半円筒形な瓦、これを組み合わせて、
このような形になりました。
正しい屋根の構造とかは考える必要はありません。
雰囲気で。
ああ屋根だなあ、という感じでじゅうぶん。
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玄関の格子戸と左右の壁。
これはもう四角だけでサックリ作って、色をつけて。
細かい処理をあれこれ。
屋根瓦の色をところどころ変える。
壁に屋根の影を落とす。
格子戸と窓の桟の所に影を入れる。
右下の市松模様の所を木目に。
ガラスにグラデーションを。
壁にもうっすらとグラデーション。
そんなところですね。
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これはなんという物なのでしょうか。
玄関の戸の横に立っている仕切りみたいなやつ。
磯野家にもたしかあったような。
これは可動式なのでしょうか、固定でしょうか。
やっぱり庭との仕切りの為にあるのでしょうか。
全く解らないまま、雰囲気で作ってしまいました。
雰囲気雰囲気。
変形してパースを付けましょう。
厚みも少し加えました。
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ところで私が古い流行歌を聞くようになったのは、昔の喜劇の人とかが歌っている面白い歌、いわゆるコミックソングとか、そういうのを聞きたいなあと思ったのがきっかけです。
つまりエノケンとか二村定一、古川ロッパや岸井明なんかのですね。
今回の杉狂児もそんな中の一人なんですけれども。
そうやって古い歌をいくつか聴いているうちに、これはどうも面白い歌だけが面白いわけではないぞ、という事にやがて気づいていくわけです。
それはともかく、
「できるまで」後編を進めて参りましょう。
例の仕切りの向こうに松の木を植えます。
松葉の所はこういう形にしました。
そして同じ物を流用しました、変化のつけようがあまり無いので。
松の木というものは表現主義的な植物なのです。
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じつはこの松を作る前に、本物の松の木は、あるいは松葉の集まりというのはどういう形になっておるのかと、写真とかを見ながら作ってみたところ、
このような物が出来てしまいました。
配置してみましたところ。
ほれごらんのとおり、絵全体の中で松葉の部分だけが浮いていますね。
作り直した方。
幾分なじんだでしょ。
このようにIllustratorでパーツごとに作るような描き方をしているときは全体のバランスに気を配る事が大切です。
というわけで、ここで一度人物も配置してみます。
お父さんの服が背景の色とかぶっていますね、要変更ということで。
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地面です、色だけでは寂しいので、なんかこんな模様です。
雰囲気です雰囲気。
色を変えてひらべったくして敷石を並べました。
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玄関の中です。
戸の隙間から見える部分。
透明マスクで上の方を暗く。
その上の方をこんなに広くとったのは、
格子戸のいちばん上のガラスを透明にしたかったからです。
実際にこういうふうになっている玄関のガラス戸は多かったようです。
わかりにくいかもしれませんが、あらよく見れば透けてるのねえ、ぐらいでいいと思います。
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玄関の右下に置く鉢植え。
これは松葉の対角にも緑がほしかったので。
すずめ。
屋根にとめます。
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塀というか柵というか、曖昧な高さの囲いのような物。
一番手前に置きます。
さて太陽ですが、このシリーズではこんなふうに顔のある太陽や月をいれることが恒例になっておりました。
はたしてこれが必要かどうかは、自分としても疑問であったわけですが、まあ今回は原点に帰るという事で、入れておきましょう。
ということで。
ほぼパーツがそろいましたので、全体像を見てみます。
おや、なぜふたつ?
よく見てみれば右の方は家が少し変形されていますね。
どっちがいいかなあという事なんですが。
まあ変化があった方が面白いので、右でいこうかな、と思います、今回は。
変化を付けない時はいっさい付けないという方針でやっていたと思います。
ファーストシーズン参照。
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あとこのシリーズではパーツごとに軽くドロップシャドウをかけています。
これは一貫してそうです。
塗りだけの絵なので、背景と前景の境をはっきりさせようという目的でやってみたのだと思います。
それなりに面白い効果もあるのでこのシリーズの慣例としました。
まず作業として、ドロップシャドウをかける物ごとにレイヤーを別けます。
まあわかりやすくする為です。
今回でいえば、空と雲と太陽とか、地面と敷石の間とかにはシャドウをかけないのでまとめておきます。
しかし女の子は格子戸の中と外に分かれているので、頭と手と胴体が別々になります。
つまりそういうような事です。
これぐらいの感じです。
あまり細かく付けないでそれぞれの輪郭のみにしておきます。
もろもろ微修正をいたしまして、
これで完成といたしましょう。
おつかれさまでした。
(2008年9月)
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